『手紙屋』 喜多川泰

社会という名の大海原に船出するあなたへ。

大切なのはどんな船に乗るかではなく、航海の目的だ。

就職活動に出遅れ、将来に思い悩む、平凡な大学4年生の僕はある日、書斎カフェで奇妙な広告とめぐりあう。その名も『手紙屋』。たった10通の手紙をやりとりすることであらゆる夢を叶えてくれるというのだ。

平凡な人生を変えたい! 目に見えないけれど確実に立ちはだかる壁を取りのぞきたい! そんな思いに突き動かされるように、僕は『手紙屋』に手紙を書き始めた……。

働くことの意味とは? 真の成功とは? 幸せな人生とは? 明日をよりよく生きたいあなたへ贈る感動作。「物々交換」「自分に向いているものを探さない」「思いどおりの人生を送る」「あなたの称号」etc. 明日を変える10の教え。

 

主人公と一緒に働くことの意味を見つめ直す

書斎のような空間の喫茶店において、主人公は「手紙屋」の広告と遭遇する。「手紙屋」は手紙のやり取りを仕事としており、十通の手紙のやり取りで夢を実現する手伝いをするという。丁度その時に就職活動に乗り遅れていた主人公は手紙を出してみようと決意する。

 

「手紙屋」からの一通目は物々交換についてである。一般的に「欲しいものはお金を払って手に入れる」と考えられているが、実際は「相手の持っているもので自分が欲しいものと、自分が持っているもので相手が欲しがる"お金"とを、丁度良いと思う量で交換している」だけであり、自分が提供できるものは何も"お金"だけではない。

 

二通目は称号についてである。周りの人を味方にするには「相手にこうなってほしいという『称号』を与える」ことが大切である。具体的には、優しくなってほしい人に対して「〇〇さんは優しい人だね」と伝えることで、言われた本人はそう振る舞おうとするのである。

 

主人公はその後就職活動を終え、「手紙屋」とのやり取りを通じて自分でも会社を経営したいと思うようになる。

 

最後となる十通目。夢を叶えられなかった人達は「私には才能がなかった」と答え、夢を叶えられた人達は「情熱を持って続けてきただけ」と答えるという。

 

7年後、主人公の起業を祝して開催されたパーティーにおいて「手紙屋」の正体が明らかになる。「手紙屋」は、レストラン経営が傾いた実家を救うために主人公の兄が始めたビジネスだという。つまり主人公は兄に人生における大切なことを教えて貰っていたのである。

 

感想

『本を読む人だけが手にするもの』の「これだけは読んでほしい」と思う本・50冊に挙げられていたので読んだ。

 

前半の物々交換や称号の話については、私があまり考えたことのない観点から述べられていたのでとても勉強になった。しかし、物語が進むに従って「今、目の前にあるものに全力を注いで生きる」や「どんなに大きな壁であっても乗り越えられないものはない」などのように非常に陳腐な言葉が連なり、かなり白けてしまった。

 

内容の浅い自己啓発書を強引に小説に仕立て上げた、というような印象の1冊。

 

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