『スタンフォード式人生を変える運動の科学』 ケリー・マクゴニガル

運動の効用は、健康増進やダイエットにとどまらない。やりとげる力、他者との絆、困難に立ち向かう勇気。人生を充実させるすべてが、体を動かすことで手に入る。本書は、人類誕生から受け継がれてきた「運動と幸福」のメカニズムを解き明かす知的エンターテイメントにして、最高の人生をおくる究極の実用書である。 

 

運動で「人生の満足度」が高まる 

第1章 持久力が高揚感をもたらす

中強度の運動を20分以上続けることで、内因性カンナビノイドという脳内化学物質が分泌される。これには苦痛を緩和し、気分を向上させる、いわゆる「ランナーズハイ」をもたらす効果がある。

 

第2章 夢中になる

ラットの実験の場合、ランニングホイールで2週間走らせただけでは分子スイッチはオンにならないが、6週間を過ぎると脳の神経信号もラットが夢中になっていることを示すようになる。

 

人間の場合だと、週3回の運動を6週間続けると、不安を軽減する脳の領域の神経結合が増える。定期的な運動によって神経系のデフォルト状態が調整されると、バランスがよくなり、闘争・逃走反応や恐怖反応が起こりにくくなることがわかっている。さらに、代謝副産物である乳酸は、脳の神経系統に作用して不安を緩和したり、うつ病を予防したりする効果があると示唆されている。

 

第3章 集団的な喜び

他の人と一緒に運動をすることで、気分が高揚したり幸福感が得られるという作用のあるエンドルフィンが分泌される。これにはアヘンから生成される麻薬性鎮痛薬であるモルヒネの数倍の鎮痛効果があることも知られている。

 

また、人間は団結して動きを合わせるとき、外的脅威への恐怖心が薄れ、敵の脅威をあまり感じなくなる上に、楽天的な思考になる。

 

第4章 音楽に身をまかせる

音楽によって脳が刺激され、アドレナリン、ドーパミン、エンドルフィンが大量に分泌されると、活力が出て、痛みが緩和される。そのため、音楽には強壮剤のようなパフォーマンス向上効果があると考えられている。

 

また、音楽は中強度の運動の疲労感を和らげる効果があり、運動が少し楽に感じられ、楽しい気分になることがわかっている。高強度の運動の場合、疲労感は軽減しないが、つらさの解釈の仕方が変化し、体の不快感にポジティブな意味を見出せるようになる。

 

第5章 困難を乗り越える

予測不可能かつ不可避の方法でラットに電気ショックを与えると、うつ病、不安症、心的外傷後ストレス障害PTSD)などに似た症状が表れる。しかし、ランニングホイールで走ることで電気ショックを弱めることができる、つまり自分で制御できる場合、ストレスに対するレジリエンスが強まる。

 

人生において困難を乗り越えるために重要な心理状態には3つの必要条件がある。第1は明確な目標。第2は目標に到達するための道筋や方法。第3は自分にはそれをやり遂げる力があると固く信じること。

 

レーニングは目標の達成に役立つと考えると、エンドルフィンや内因性カンナビノイド血中濃度が上昇する。自分が何のために努力しているのかを認識し、今行なっていることは重要だと信じていれば、脳内化学物質をうまく利用して、痛みや疲労を乗り越えることができる。

 

第6章 いまを大切に生きる

どんな運動であれ、屋外で体を動かし始めて5分もすると、気分が明るくなり、楽観的になることがわかっている(グリーン・エクササイズ)。うつ病の治療を受けている患者たちが自然の豊かな公園を1か月間、週に1回散歩したところ、61%は寛解状態に入っていた。また、自殺未遂をした患者たちに対する通常の治療に、山でのハイキングを加えた場合は、自殺念慮や絶望感が緩和されることがわかった。

 

人間の脳は安静時にはデフォルトという状態になり、過去のつらい経験を何度も思い出したり、自分自身や他人を批判したり、心配すべき理由をしつこく考えたりすることが多くなる。うつ病や不安症の患者はデフォルト状態に陥ったまま、切り替えが上手くできなくなるが、グリーン・エクササイズにより鎮静化することが可能である。

 

第7章 ともに耐え抜く

アスリートの血液中のホルモンを分析したところ、イリシンというホルモンの数値が極めて高いことがわかった。イリシンは脳の報酬系を活性化させるほか、天然の抗うつ剤としての効果もある。イリシンは新規マイオカインとして知られている。

 

運動中に血液に分泌される有益なマイオカインはイリシンだけではない。1時間のサイクリング中に大腿四頭筋から分泌されるタンパク質は、35種類もあることがわかっている。筋肉の増強に役立つものもあれば、血糖値の調節や、炎症の緩和、がん細胞の破壊などの働きをするものもある。運動の長期的な健康効果は、筋収縮により分泌される有益なマイオカインの効果によるものだと考えられている。

 

血管内皮増殖因子(VEGF)と脳由来神経栄養因子(BDNF)は、脳細胞の健康を守るほか、脳が新生神経細胞を生み出すのを助ける働きをしている。また、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)は、中脳のドーパミン神経細胞を守る働きがある。

 

さらに、その他のマイオカインには脳の炎症を抑える効果があり、神経疾患の予防や、うつ病や不安症の緩和にも繋がる。慢性のストレスによる神経毒性物質の代謝を促し、神経毒性物質が脳に到達する前に、血中で無害な物質に変える働きがある。

 

感想

2020年5月に出版された比較的新しい本であり、運動がもたらす効果について色々と書かれていそうだったので読んだ。また、現在行なわれている東京オリンピックに感化されたのも読書理由の1つである。

 

運動をするとどのような脳内化学物質が分泌され、それによりどのようなプラスの効果がもたらされるのかが事細かに書かれていたので勉強になった。以前はランナーズハイはエンドルフィンによるものだと言われていたが、最近の研究によると内因性カンナビノイドによって引き起こされている、といったように新刊であるメリットも活かされていた。厚生労働省が提供しているe-ヘルスネットには『マラソンなどで苦しい状態が一定時間以上続くと、脳内でそのストレスを軽減するためにβ-エンドルフィンが分泌され、やがて快感や陶酔感を覚える「ランナーズ・ハイ」と呼ばれる現象がよく知られています。』*1と古い情報が記述されているので、常に新しい研究結果に目を向ける必要があると感じた。

 

本書で運動のメリットを学ぶことで「今やっていることはとても健康にいい」と思いながら運動をすることができるので、より効果を出しやすく、また継続しやすくできると感じた。運動をしない理由はないので、私もまずは週に2,3回程度の中強度の運動を数カ月継続するところからはじめようと強く感じた。

 

全体を通して個人的な体験談とそれを裏付ける研究結果というような構成になっていたが、個人的な体験談はあくまでもその人の単なる感想に過ぎないので、もっと削ってもいいと思った。参考文献は巻末のPDFで閲覧できるようになっていた。*2

 

面白さ   :★★★☆☆

役立ち度  :★★★★☆

専門性   :★★★★☆

読みやすさ :★★☆☆☆

読了所要時間:★★★★☆

総合評価  :★★★☆☆

 

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